大野竜三先生「朝日新聞」投稿「がん治験情報 患者本位の検索サイトを」
(私の視点) がん治験情報 患者本位の検索サイトを 大野竜三
私は名古屋市の患者団体「ミーネット」と協力し、ボランティアでがん相談をしている。訪れる患者の大半は、現行の標準的治療法が効かなくなったため、今後の治療方針を相談に来る方々で、できれば開発中の新治療法の恩恵を受けたいと切望している。だが、ある程度の知識をもった患者でも、自分の患うがんについてどんな臨床試験(治験)が行われているのか、ネット上で役立つ情報を得るのは難しい。
代表的な治験検索サイトの一つとして、厚生労働省が作成を支援し、「一般の方々が必要とされている情報を正確に分かりやすく提供する」という触れ込みの「臨床研究(試験)情報検索」がある。試しにこのサイトで「癌(がん)領域」を指定し、「膵臓(すいぞう)がん」や「膵臓癌」と入力すると、「データは見つかりません」と表示される。しかし、「膵癌」と入力すると、47件もの検索結果が出てくるのだ。一方「自由にキーワードを設定してください」という欄で検索すると、またもや異なる結果が出てしまう(14日現在)。
検索結果についても、新薬の治験だけではなく、既発売の薬を使用した臨床研究も多数含まれている。患者自身がいちいち確認するのは難しいし、大変な手間がかかる。すでに募集を終了しているものも多い。膵臓がんはよい治療法がなく、生存率も低いため、患者からの相談が多い。それについてこのような使い勝手の悪さでは、患者本位とは言えないだろう。
そもそもこのサイトは、三つの治験・臨床研究情報サイトにある専門家向け情報を一括検索できるようにしただけで、一般患者のニーズに応えるには無理がある。
厚労省は現在、このサイトの使い勝手をよくすることを検討中と聞くが、現行サイトの単なるバージョンアップではなく、本当に患者のことを考えた治験情報サイトを一から立ち上げることを提案したい。その際に提供するべき情報としては
- 治験薬、治験方法などの簡単な説明
- 対象となる患者の年齢、性別
- 治験は実験初期段階か、有効性の確認段階か、他の治療との比較試験段階か
- 対象は治療歴のある患者か、未治療の患者か
- 治験実施病院・診療科の直接の連絡先、などが挙げられる。
幸い、独立行政法人医薬品医療機器総合機構は、すべての治験情報を把握している。それをベースとして、以上のようなデータを簡単に検索できるようにすれば、患者にとって有益であると同時に、治験実施機関も協力者を集めやすくなる。わずかな労力で、患者・治療側双方にとって大きな助けになるはずだ。
(おおのりゅうぞう 愛知県がんセンター名誉総長)
大野 竜三 愛知県がんセンター名誉総長 (専門は血液学、臨床腫瘍学)
愛知県がんセンター病院長、同総長
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2014年11月15 日 0 5 時 0 0 分
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