小児がんと白血病
小児がんと白血病 愛知県がんセンター名誉総長 大野 竜三
小児がん
ご存知のように、がんは高齢者に多い病気です。わが国の最新データによれば、1年間に99.5万人が新たにがんを発病するなかで、15歳未満の小児は2,144人で、わずか0.2%を占めるにすぎません。
小児のがんが高齢者に比べると稀である理由は、がん細胞がどのようにして発生するかを知ることにより理解できます。
我々の体内にある細胞は、ある一定の時期がくると死滅して新しい細胞に置き換わる新陳代謝を繰り替えしています。計画細胞死(アポトーシス)といわれる現象です。新しい細胞が生まれる過程で放射線、ウイルスやタバコなどに含まれる発がん物質が遺伝子を傷つけますと、その細胞は計画細胞死に異変がおき、計画された期間より早く死滅したり、逆に死滅しにくくなったりします。通常は、前者の方がよくおきますが、稀には後者のようになります。
がん細胞は、このように発がん物質の作用でおきた遺伝子異常により、死ににくくなっている細胞です。ただし、遺伝子異常が一個だけでは腫瘤を形成するに至らず、少なくとも数個、普通は何十個もの遺伝子異常が重なって、初めて腫瘍を形成します。
このように、がんは多段階の遺伝子変異が蓄積された結果として発生する病気ですから、細胞の新陳代謝を長年くりかえしてきた高齢者に多く発生し、小児では稀なのです。
この稀な小児がんに罹患されますと、ご家族は「なんでうちの子が?」、「何が原因か?」と尋ねられますが、原因がわかることはほとんどありません。身体の中でかなり頻繁におきている遺伝子の変異が、全く偶然に左右され、細胞が死ににくくなる方向に変異した場合にがんになっているのです。小児がんの場合には、遺伝子変異が既に母親の胎内にいるときからおきていることもあります。
小児白血病と治療
小児がんのなかで最も多いのが白血病です。わが国では、最新の2016年のデータによれば、年に769人が発病しており、小児がん全体の35.9%を占めています。次いで多いのが脳腫瘍・神経芽腫・網膜芽細胞腫などの中枢神経系のがんで15.2%を占め、悪性リンパ腫が10.8%と続きます。それ以外にも、胚細胞腫、性腺腫瘍、骨肉腫などがあります。
一方、がんでお亡くなりになる15歳未満の小児は年282人ほどおられますが、中枢神経系のがんが103人と最も多く小児がん死の36.5%を占め、次いで白血病が83人で29.4%を、悪性リンパ腫が4.3%を占めています。
小児がんのほとんどは胎生期の間葉系細胞由来の細胞ががん化したものですが、高齢者に多い胃がん、大腸がん、肺がんなどの多くは胎生期の上皮系細胞ががん化したものです。
がんを表すときに「がん」と書いたり、「癌」と書いたりされていますが、細かくいいますと両者は違ったものを指しています。「癌」は英語のcarcinomaに相当し、上皮系細胞の悪性新生物を意味するのに対し、「がん」は英語のcancerに相当して、より幅広く、上皮系と間葉系両方の悪性新生物を包括したものです。二つが混同して使われることは多いですが、がんセンターや小児がんには「がん」を使うのが適切です。
小児がんの中で一番多い白血病は、歴史的には薬で治すことができる最初のがんとなり、現在では、そのほとんどを化学療法で治すことができるようになっています。白血病の治療を専門にしている医師にとっては、来られた小児白血病患者さんの全てを完治させるのが義務であるといえるほどなのです。上述の日本での統計でも、9割の患者さんが生きておられ、がんの中では最も高い治癒率を示しています。
白血病は、がん化している血液細胞の種類によってリンパ性と骨髄性に分類され、さらに病気の進行速度の違いにより、急性と慢性に分類されます。小児では、急性リンパ性白血病が7~8割を占め、次が急性骨髄性白血病であり、慢性は稀です。
急性リンパ性白血病は化学療法が非常に良く効き、ほとんどの症例で完治することができます。しかし、5%くらいの症例は特殊な異常遺伝子を持っているために化学療法だけでは完治できませんから、骨髄移植が必要になります。急性骨髄性白血病にも化学療法はよく効きますが、リンパ性に比べてややその効果が落ちますから骨髄移植が必要な例が多くなります。
全般的には、小児の中でも年齢が高くなるほど化学療法が効きにくいタイプが増えてきます。また、発見が遅れ、初診時の白血球数が多ければ多いほど、完治率が減少します。
すなわち、白血病は他の一般的ながんと同様に早期に発見すればするほど化学療法はよく効きますから、なるべく早く見つけることが肝心ですが、白血病のみに特徴的な症状があるわけではありません。
小児白血病の初期症状
それでも、お子さんに以下のような症状があったら、かかりつけ小児医を受診して血液検査をしていただくとよいでしょう。
一つ目は、赤血球が減少することによる貧血症状です。顔色が悪い、元気がなくなった、走るとすぐ疲れたり息切れがするなどの症状がでます。
二つ目が、正常の白血球が減少することによる感染症です。よく熱をだす、風邪の熱がなかなか下がらないときなどは要注意です。
三つ目は、血小板減少による出血症状です。歯を磨くと出血する、下肢に点状出血や青あざが出たときなどは要注意です。
子どもさんは活発ですから、足や手にあざを作ることはよくあります。そんなときには、最近歯を磨くときに出血するようになったか否か、下肢に点状の赤い斑点が沢山見られないかを確かめ、もしこれらが同時にあれば、血液検査を受けさせましょう。
鼻血をよく出す子もいますので、親としては、白血病ではないかと心配されることが多いようです。でも、鼻血が片側だけから出ているのであれば心配はいりません。多くは利き手側の鼻から出ます。お子さんが無意識に利き手の指で鼻をほじくり鼻の粘膜を傷つけているのです。両側から出ている場合には、最近歯を磨くときに出血するようになったり、下肢に点状出血斑が見られるようであれば、血液検査を受けさせましょう。
小児白血病にかかったら
小児の白血病は、早めに見つければ、ほぼ完治できる病気ですし、血液検査で容易に診断可能ですから、早めにかかりつけ医を受診してください。
日本では、小児がん研究グループ(Japan Children Cancer Group, JCCG)という全国の大学病院やセンター病院の小児科医が集まった結成した多施設共同研究グループが、日本の実状にあった治療法を開発しつつ最新の治療を実施しています。かかりつけの小児科医に、JCCGに参加している病院を紹介していただくことによって、最良の治療を受けることができます。
大人の白血病の場合は、日本成人白血病研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group, JALSG)参加施設がこれに当たり、日本の実状の合った最良の治療を受けることができます。
さらに詳しくわかりやすく、2022年12月に大野 竜三名誉総長が執筆されています 「もしかして、白血病では?! その1」
続き:受診の目安などを解説(2023年5月) 「もしかして、白血病では?! その2」