世界最大の治験情報サイト「ClinicalTrials.gov」から日本でおこなわれているがんの治験(臨床試験)をリンクしました。

新型コロナウイルス(COVID-19)とがん

新型コロナウイルス感染症は、2019年11月ころに中国・武漢の生鮮市場で扱っていた動物から感染して発症したと考えられている感染症です。WHO(世界保健機関)はこれをCovid-19と命名し、原因ウイルスは、ヒトに病原性を示す7番目のコロナウイルスであるSARS-Cov-2です。
このウイルスの仲間には、2002年~2003年に中国、香港や台湾で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年~2013年に中東アジアで流行した中東呼吸器症候群(MERS)に加えて季節性風邪をおこすコロナウイルスが4種あり、電子顕微鏡でその形が太陽の光環(コロナ)状にみえるのでそう呼ばれています。SARS-Cov-2の表面に突起があり、この突起が鼻や咽頭の粘膜細胞にあるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合して細胞内に侵入し、そこで増殖してウイルスの数を増やし、感染を拡げて行きます。
実はACE2の作用で作られるアンギオテンシンは、血管を収縮させて高血圧の原因になる物質です。そのため、この酵素の働きを阻害する薬や酵素の受容体をブロックする薬が降圧剤として広く使われています。他方、小児が新型コロナに罹患しにくいのは、小児の細胞には、この酵素が少ないからであるといわれています。
2020年1月に中国の武漢市およびその周辺の湖北省で大流行が始まり、まもなく8万人を超える感染者と3千人を超える死者が出ました。その間、この地域からの旅行者を介して、1月末ころから、まず香港、台湾、韓国、日本などに拡がり、2月にはクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号での集団感染(クラスター)が世間を騒がせました。3月に入りイタリアやスペインでも大流行が始まり、アメリカでの大流行をうけて、3月11日にWHOはパンデミック(世界的大流行)が始まったと宣言しました。
これを執筆している2020年11月中旬現在、新型コロナ感染症は依然として猖獗を極めており、全世界の感染者数は5,300万人、死者は130万人を超え、連日60万人前後が感染し、9千人近くが間質性肺炎などで死亡する大惨事となっています。
日本でも、3月末に第一波が襲来し、4月7日に緊急事態宣言が発令され、その結果、一旦は流行がおさまり、5月25日に宣言は解除されました。しかしながら、落ち込んだ経済を活性化させようとして始まったGoToトラベルキャンペーンなどを機に7月下旬から8月にかけて第二波が襲来し、一時鎮静化の傾向があったものの、寒くなり始めた11月には第三波が襲来し、11月中旬現在、感染者数は11万人、死者は1,800人を超えています。
それでも、他の国々と比較すると、日本は人口100万人当たりでは、感染者884人、死者15名であり、アメリカの各々32,781人と749人、フランスの29,065人と648人、イタリアの18,941人と739人、イギリスの18,969人と748人、ドイツの8,937人と146人に比べれば1/50~1/10であり、まだ少ない方といえるでしょう。
日本では以前からマスクを着用することに抵抗感がなく、清潔好きで、握手やハグの習慣がなく、教育程度も高く、基礎的な衛生知識も普及していることなどが大きな理由と思いますが、三密を避けなければ容易に感染しますから、油断は禁物です。
イギリスに在住している長女が3月ころ子どもの送り迎えの際にマスクをしていたら、欧米にはマスク着用習慣がないこともあって、周囲の親たちから、子どもに不安を与えるからしないでくれと文句を言われたそうです。そんなイギリスでしたが、マスクをしない人が多いために感染が拡大したと認識されるようになり、今では、マスクなしで公共交通機関に乗車すると罰金が科せられています。アメリカでは、トランプ現大統領のマスク着用を含めた新型コロナ軽視の影響もあり、世界で最多の感染者と死者を出しているにもかかわらず、未だにマスクをしていない人が大勢いるのをテレビなどでご覧になっていることでしょう。
欧米先進国のマスク軽視は、これまでにインフルエンザや院内感染症などで、マスクをしても必ずしも感染を予防できなかったという研究結果があることに基づいていました。しかし、よくよく考えてみますと、健康な人は、たといインフルエンザや院内感染症に罹っても簡単に命を落とすことはないのですから、研究期間中も、それほど熱心にマスクをしていなかったのでないかと思われます。
重症化すれば命を落としかねない今回の新型コロナ感染症に関しては、マスクやフェースシールドを着用すると他人のみならず自身の感染率を大幅に抑えることができるという研究成果が幾つか報告されており、マスクをしなければ罰金という国も出てきたのです。また、眼鏡をしている人はしていない人よりも感染しにくいという報告もあり、ウイルスの侵入を防ぐことは最も大切な予防法です。
この新型コロナ禍の中で、がん患者は、たいへん厳しい局面に立たされています。
がん患者が新型コロナに感染しやすいか否かについては、異なった報告があり、初期のころは感染しやすいという説が強かったのですが、色々な要因を調べてみると、感染率はほぼ同じか、ほんの少しだけ高い程度だとわかりました。ですから、普通の人と同じように、マスクをする、手洗い、手の消毒やうがいを励行する、三密を避けるという感染予防策をとっていればよろしいでしょう。
ただし、がん患者は、いったん感染すると重症化しやすいことは間違いのない事実であり、重症化率が普通の人の2~3倍も高くなることが知られています。
その原因の多くは、治療の副作用によるものです。ほとんどの化学療法薬は白血球を減少させる副作用があり、細菌などを殺す好中球やウイルスに対する主な免疫反応を担うリンパ球が減少します。加えて、白血球を減少させる副作用のない分子標的薬の中には、間質性肺炎を誘発する副作用のある薬が多く、そのため新型コロナに特徴的な間質性肺炎になりやすくなるのです。また、肺がんなどに対して放射線治療がされていると、正常な肺組織もダメージを受けていますので、新型コロナの間質性肺炎に罹りやすくなってしまいます。
したがって、副作用のある治療を躊躇することが多くなり、結果として、がんが悪化して不幸な転帰をとられるケースが増えているのです。
絶対必要とはいえない治療であれば延期することは許されますが、そうでない場合には、新型コロナに感染するかもしれないと心配して、抗がん治療を先延ばしするのはよくないとされています。
がん患者であっても、感染率そのものは、普通の人と変わらないわけですから、ひと一倍感染予防に注意すればよいのです。最近の日本の状況は、キチンとマスクを着用し、手洗い、手の消毒やうがいを励行していれば、感染がおこるのは、マスクを外さざるを得ない会食や飲酒時の三密にほぼ限られているといってもよいようです。病院側も手指のアルコール消毒や窓口のシールド、面会謝絶など、感染予防対策をしっかり取っています。ですから、感染した場合の重症化リスクの可能性はあるものの、できることなら、予定通りの治療を受けていただきたいと思います。
本サイトが紹介するがん治療薬の治験に関しても同様です。アメリカでの調査では、新型コロナを恐れて治験に参加するがん患者が減っているようです。しかし、治験のほとんどは新薬の治験であり、まだ、確実に有効な抗がん薬が少ないがん患者にとっては、最後の望みの綱であることがほとんどです。事実、治験に参加したからこそ、最先端の治療が受けられ、その結果、がんを克服できた患者さんも大勢おられます。
新型コロナ感染症に関する治験も同じことがいえます。運悪く罹患してしまったら、治療薬が全くないといってよい現状ですから、治験薬しか治す薬はないかもしれません。また、感染を防ぐワクチンの治験もあります。本サイトでは、これらの治験情報も提供しています。
なお、今や二人に一人はなるといわれるがんを克服する最もよい方法は、早期発見・早期治療です。多くのがんにおいては、これによってしか完治できないのが実情です。たといこのコロナ禍であっても、市町村や職場のがん検診は予定通りに受けることが大切です。検診センターも十分な予防策を講じていますから、細心の注意を払いつつ、定期検診を受けるようにしてください。
新型コロナの流行を抑えるには、ワクチンが絶対必要です。最近、有望なワクチンが出来たとの報道もありますので、ワクチンが供給されるようになったら、がん患者はもちろんですが、積極的に受けて欲しいと思います。有効なワクチンが行き渡り、一日も早く新型コロナ感染症が終息することを願っています。

愛知県がんセンター名誉総長
大野  竜三

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